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勇気ある女性たちが時代を切り拓く 高柳聡子『ロシア 女たちの反体制運動』を野中モモさんが読む(書評)(Book Bang)

21世紀もそろそろ最初の4分の1が過ぎようとしている現在、この世界はすっかり悪い冗談みたいになっている。異常気象やら地震やらに対処するだけでも大変だというのに、いまだに武力で都市を破壊し人びとを殺傷しているのだから、人類は愚かで野蛮だ。ロシアで20年以上にわたって続くプーチン政権は、2022年2月にウクライナへの全面的な軍事侵攻を開始した。以降、ロシア国内では体制批判の声をあげる人びとが以前に増して厳しい取り締まりを受け、同時にマイノリティの権利を剥奪する政策が次々に施行されているという。

 だが、そんな苦しい状況にあっても、ロシアには平和と自由を求めて抵抗運動に身を投じる人びとがいることを私たちは知っている。そうして闘う人びとの中には多くの女性がおり、ともすれば女性のほうが多いようにも見えると著者は綴る。彼女たちはどうしてそんなことができるのか。その勇気と活力の源はどこにあるのか。本書は、それが突然に発生したものでは決してなく、苦難に満ちたロシア史には常に圧政に抗(あらが)う女たちの活動があったことを教えてくれる。いうなれば伝統的な歴史記述においてはいないことにされてしまいがちだった女性の存在に注目して駆け抜けるロシア近現代史だ。19世紀後半、ロシア帝政時代に国家体制の転覆を目指したナロードニキ運動。ソヴィエト連邦を生んだ1917年のロシア革命。スターリン時代の過酷な弾圧を生き抜いた人びと。1950年代の「雪どけ」以降の反戦・反核・フェミニズム運動。そうした果敢な実践の数々が今日のプーチン政権と闘う女たちに繋がっているのだ。

 公式な文書や本だけにとどまらず「サミズダート」と呼ばれる地下出版物や路上のデモに広場での朗読、ときには記憶を頼って伝えられてきた人びとの声の背後には、さらに歴史に名を残してはいないたくさんの人びとの人生がある。その存在は時間と空間を超えて、いつか歴史になる現在を挫(くじ)けず背筋を伸ばして生きたいあなたを鼓舞してくれるはずだ。

野中モモ
のなか・もも●翻訳者

[レビュアー]野中モモ(翻訳者)

協力:集英社 青春と読書

Book Bang編集部

新潮社
新潮社


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